気分はお遍路旅 阿波の廃村めぐり(1)

気分はお遍路旅 阿波の廃村めぐり(1) 徳島県阿南市辰巳,__________
_____________________________________________勝浦町奥立川,神山町持部

高度過疎集落 持部(もちべ)に残る分校跡の建物です。



2010/8/6 阿南市辰巳,勝浦町奥立川,神山町持部

# 10-1
平成22年夏,廃村全県踏破の旅のメインは,四国で最後まで残った徳島県です。大阪から四国に向かうツーリングは,平成16年春以来,6年半ぶりです。
大阪(堺)から徳島へ行くというと,西宮もしくは泉佐野から淡路島(津名)までフェリーに乗るというイメージがあったのですが,明石海峡大橋(平成10年4月供用開始)ができた今,大阪湾を横断するフェリーは泉佐野−津名便の休止(平成19年1月)をもって,すべて廃止されていました。
和歌山−徳島間(約55km)のフェリーの所要時間は2時間。これに対して,堺から明石海峡大橋経由鳴門北ICまでは見積り距離130km,見積り時間2時間15分です。私は休憩しているうちに目的地に着けるフェリーに乗るのは好きなのですが,これでは堺から和歌山まで(約60km)行く気にはなりません。

# 10-2
四国東部ツーリング,徳島県は1泊2日,目標とする廃校廃村は鳴門市から海陽町(旧海南町)まで,リスト線上のものも含めて全部で10か所です。
四国の旅といえは,四国八十八箇所巡礼(お遍路旅)。今回の宿泊地,上板町近辺には1番から10番までの札所(お寺)が固まっており,名前の珍しさから選んだ民宿「寿食堂」もお遍路旅の宿の様子です。「目標に向かって旅をする」という点では,廃村めぐりはお遍路旅と共通します。
平成22年8月6日(金,旅初日),天気は快晴。堺の実家を朝8時頃に出発し,阪神高速湾岸線,神戸線,第二神明道路を経由して明石海峡大橋へ。吊り橋としては世界一の長さ(全長3.91km)という明石海峡大橋を渡っていて驚いたのは,その長さよりも主塔の高さ(海面上298m)でした。


# 10-3
母方の実家がある淡路島(約60km)を1時間弱で通過し,鳴門北ICに到着したのは午前10時15分。徳島の廃村巡礼1番札所 鳴門市田ノ浦(Tanoura)は,鳴門北ICから5kmほど,島田島の海岸沿いにあります。島田島は,鳴門スカイラインの開通(昭和46年)までは,船を使わないと行けない離島でした。
住宅地図(H.20)で見た田ノ浦の戸数は3戸。高度過疎集落の範疇ですが,隣りの集落 室(Muro)との距離は800mほどです。どんな様子なのかと足を運んでみると,田ノ浦は,離島の風情が残る入江沿いの道の行止まりにある,新しい家屋と古びた廃屋が交じった小さな集落でした。内海のためか,入江の波はとても穏やかで,堤防からは淡路島や大鳴門橋(全長1.63km,主塔の高さ144m)がよく見えました。

# 10-4
島田小学校室分校は,へき地等級1級,児童数19名(S.34),昭和56年閉校。折よく,集落の方がクルマで戻ってこられたので,ご挨拶をして分校のことを尋ねると,バイクを停めた道端の前の草むらが分校跡とのこと。目を凝らしてみたのですが,痕跡は何も見つかりませんでした。
田ノ浦に続いて足を運んだ室は,10戸を超える過疎の匂いは薄い漁村でした。このことから田ノ浦は,リストには加えないことに決めました。
廃村巡礼2番札所 阿南市辰巳(Tatsumi)は,島田島からは徳島市街を挟んで50km,那賀川の河口にあります。島田島を出る手前,鳴門スカイライン沿いの喫茶店で早めの昼食をとり,交通量が多いR.11,R.55を通過して,那賀川にかかる橋を渡っていると,「辰巳工業団地」左折の看板が見えました。

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# 10-5
富岡小学校辰巳分校は,へき地等級無級,児童数14名(S.34),明治31年開校,昭和39年閉校。那賀川河口の中洲にあった半農半漁の集落 辰巳は,県の工業用地造成のため昭和45年までに移転を完了し,無住の地となりました。市街地のすぐそば,海沿いの廃村ということで,「村影弥太郎の集落紀行」Webの記事がなければ,気がついていなかったに違いありません。村影さんのWebから,存在を知った廃校廃村は,群馬県から徳島県まで9か所もあります。
辰巳工業団地にバイクを乗り入れ,探索したところ,往時の雰囲気を伝えるものとして,桑野川の川辺に浮かぶ小舟,まとまったお墓(江島墓地),治水を願う神社(水神社)が見当たりました。墓地,神社はともに整然としていましたが,係わりがある方と出会うことはありませんでした。

# 10-6
廃村巡礼3番札所 勝浦町奥立川(Okutadukawa)は,辰巳からは勝浦町経由して35kmほど,立川(勝浦川の支流)沿いの山間(渓谷部)にあります。
那賀川の堤防をバイクで走り,低い峠で勝浦川沿いの県道に出ると,四国八十八箇所巡礼20番札所 鶴林寺をめざすお遍路さんの姿が見られました。
立川渓谷沿いの道を上っていくと,恐竜のオブジェがあってびっくりです。何でも恐竜の化石(イグアナドンの歯)の発見を記念して作られたとのこと。
古い地形図(雲早山,S.36)を見ると,文マークは立川沿いの小集落 中伊豆(Nakaizu)に記されています。手前の小集落 辻谷(Tsujitani)で出会った農作業の方(50代ぐらいの女性)に,分校跡について尋ねると,「少し上流に家屋が二軒あって,その少し先にある」と教えていただきました。

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# 10-7
横には人なつこいイヌがいて,私にも尻尾を振ってくれました。しばらく後をついてきたので,記念の写真を一枚撮りました。ポツンと離れた一軒目の家に続く歩道には小さな沈下橋があって,とても涼しげです。この古くて大きな家には歩いて訪ねましたが,住まれる方はいませんでした。
横瀬小学校立川分校は,へき地等級2級,児童数15名(S.34),明治43年開校,昭和43年閉校。中伊豆らしき場所にある二軒目の家も閉ざされており,家の少し先には山間としては広い平地がありました。平地にバイクを停めて,教えていただいた感じで上り坂を歩いていくと,立派な門構えの古い廃屋が見つかりました。はっきりとした痕跡は見つかりませんでしたが,この辺りに分校があったと考えてよさそうです。

# 10-8
この日最後の目標,廃村巡礼4番札所 神山町持部(Mochibe)は,奥立川からは勝浦町,佐那河内村を通って42km,鮎喰川沿いの山の中腹にあります。手元の二万五千分の一地形図(川島,S.63)に記された持部に向かう道は,鮎喰川沿いの小集落 駒坂(Komasaka)からの破線の道だけでした。
それほど高くない峠を2つ越えて,神山町駒坂に着いたのは午後4時45分。持部へ向かう道を見い出せないまま県道を上手に進んでいると,ゲートボールをする人々の姿が見えました。しかし,動きは全くなく,「はて?」と思いよく見てみると,人々はすべてかかしでできていて,びっくりです。このかかしは「28歩の会」という町おこしの会の方々が作られたもので,「かかし夢街道」として,県道沿いを整備されているそうです。

# 10-9
県道を少し進むと,会の事務所がありました。この日は笹飾りと七夕だんごの配布があって,通りがかりの私もお呼ばれしました。よい機会なので会の方(50代ぐらいの女性)に持部に向かう道を尋ねると,「駒坂からは歩道しかないので,下手の五反地から上るとよい」と教えていただきました。
お礼をいって,笹飾りをバイクの荷台にくくりつけて来た道を戻り,五反地には着いたものの,やはり持部への道はわかりません。ガソリンスタンドに入ってお店の方に尋ねると,「店の正面の細い枝道を行けばよい」と教えていただきました。地図に載っていない道を探すのはたいへんです。
夕暮れに追われながら,山の中腹の小集落 田ノ窪(Tanokubo),峯長瀬(Minenagase)を過ぎ,たどり着いた持部は山上にほど近い高所の集落でした。

# 10-10
車道は個人の家に突き当たって終わっていたので,この家の方(50代ぐらいの男性)に「分校跡を訪ねてきたのですが…」と声をおかけすると,「集落入口の三差路を右に進み,突き当たった個人の家のそばにある」と教えていただきました。また,現在持部に住まれる家は3戸とのこと。
何度か道を間違いながら,何とか突き当たりの個人の家まで到着したものの,「この道が分校跡に続く道」という確証が持てません。念のため,この家の方(おばあさん)にも「分校跡を訪ねてきたのですが…」と声をおかけすると,「その道を少し上がったところにある」と教えていただきました。「見知らぬ者が訪ねる時間ではなかったなあ」と反省しながらも,分校跡の姿が見えたときには,「あきらめないでよかった」と思いました。

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# 10-11
広野小学校持部分校は,へき地等級1級,児童数10名(S.34),明治41年開校,昭和61年休校。平成13年閉校。明治末頃から大正頃は,銅を産出する鉱山があったとのこと。住宅地図(H.20)で見た持部の戸数は6戸でしたが,予想よりも多くの閉ざされた家屋がありました。住まれる方から3戸と伺ったこと,訪ねてみて感じたへき地性の高さを考慮して,持部は高度過疎集落としてリストに加えることに決めました。
持部から,石井町,吉野川市(旧鴨島町)を経由して,上板町,四国八十八箇所巡礼6番札所 安楽寺のそばの民宿「寿食堂」に到着したのは夜7時半。お遍路旅で菅直人首相が泊まられたという宿のこの日宿泊は,一人旅の男性と私のふたりでした。夕食は,この地の名物,たらいうどんを食べました。



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