冬の飛騨神岡 雪中ラジオロケの旅

冬の飛騨神岡 雪中ラジオロケの旅 岐阜県飛騨市跡津川,栃洞

廃村 跡津川(あとつがわ)に建つ,雪景色の神社です。



2009/2/1 飛騨市(旧神岡町)跡津川,栃洞

# 13-1
平成21年1月,名古屋のCBCラジオのディレクターの方(横山さん)から取材依頼のメールがありました。番組は「多田しげおの気分爽快!」(平日朝6時半〜9時の帯番組),コーナーは「永岡歩の世界不思議大発見!!」(全国の様々な商品・活動・スポットを紹介)という8分間のコーナーとのこと。
仮タイトルは「廃村の魅力を大発見!!」,CBCのアナウンサー永岡歩さんが私に廃村の魅力をインタビューしながら,一緒にどこかの廃村を巡るというもので,ロケは,横山さんと永岡さんのふたりが,マイクと録音機を持って行うとのことです。ラジオの取材依頼は初めてのことで,「音声だけでどんな内容になるんだろう」と興味が湧いたので,「お受けしたいと思います」と返事を出しました。

# 13-2
横山さんによると「交通費を支払う余裕はないのですが,東海三県の中であれば,遠くても許可が出るのでどこでも大丈夫です」とのことなので,季節柄なかなか行けない雪の飛騨神岡を思いつきました。岐阜県は徳山村をはじめ,美濃では多くの廃村に行っていますが,飛騨は今回が初めてです。
飛騨神岡には,かつて神岡鉱山(主要鉱物は亜鉛,鉛など,平成13年閉山)があり,栃洞(Tochibora)と大津山(Ootsuyama)には学校がありました。これとは別に,農山村の廃村もあり,学校があった廃村は跡津川(Atotsugawa)と佐古(Sako)です。このうち跡津川は,住宅地図(H.17)には6戸記されているものの,冬はどんな様子なのかまったくわかりません。検討の結果,ロケで訪ねる廃村は,跡津川と栃洞になりました。

# 13-3
ロケの日取りは2月1日(日)の朝9時頃から午後3時頃,待ち合わせはJR高山駅と決まりました。夜行急行「能登」に乗って富山経由で行けば,高山には8時頃には到着します。「能登」のJR大宮駅発は午前0時1分。旅は1泊2日(車中泊を除く),1日目が飛騨神岡で,2日目は富山県の五箇山です。うたた寝して「のんびり走っているなあ…」と思いながら車窓を見ると,駅名板は糸魚川で時間は5時少し過ぎ。定刻よりも1時間近く遅れています。
乗り継ぐ予定のローカル列車の富山発は5時52分。「遅れても列車は待ってくれるのだろう」と思い,車掌に確認してみると,「乗り換えの便宜はありません」,「次の高山行きの特急に,特急券を買って乗り継いでください」とのこと。とんでもない話なのですが,従うしかありません。

# 13-4
まだ暗い富山に到着したのは6時5分,しかたがないので,駅近くの吉野屋で牛丼を食べてひと休み。途中猪谷までのローカル列車の車窓からはどんよりとした冬景色が見え,神通川の渓谷からは雪景色になりました。猪谷で特急「ひだ」に乗り継いで高山に到着したのは9時32分,だいぶ遅れてしまったのですが,駅では横山さん達が待ってくれていてひと安心。横山さん,永岡さんは,朝6時頃名古屋を出発して,3時間ほどで着かれたとのこと。
まず目指したのは,県境に近い跡津川です。気温はマイナス1℃の真冬日で,天候は乾き雪。番組の打合わせをしながらクルマを走らせて,1時間半ほどで着いた跡津川へ向かう道は真っ白です。土(Do)という手前の集落を過ぎてしばらく走ると,クルマの轍がなくなりました。

# 13-5
「ここからは歩こう」と集落の手前1kmほどの場所にクルマを停めて,30cmほどの積雪の中,インタビューを受けながら跡津川を目指して歩きました。
「廃村めぐりの楽しみは何ですか」の問いには,「三段階あって,ひとつ目が事前に調べて想像を膨らませる楽しみ,二つ目が実際に行ってみてどうなのかを知る楽しみ,三つ目がそれをまとめてホームページや冊子に記録を残す楽しみ」と答えました。この返答は形になってきた感じがします。
歩き始めて20分ほど,「まだ着きませんか」という空気が流れてきた頃,行く手に石垣と家屋が見えてきて,跡津川に到着です。5戸ほど見えた家屋は整っていましたが,人が居そうな気配はありません。「冬は無人になっていることは間違いない」ように感じられました。

....

# 13-6
「廃村の魅力とは」の問いには,「日常生活のしがらみから離れた自由な雰囲気があることです」と答えました。インタビューを続けていくうちに,横山さんから「廃村は人間界と自然界の境界にあって,そのコントラストが面白いのでしょうか」との声が上がり,「確かにそうですね」と私も納得。
集落の規模は意外と大きく,道を先に進むと立派な神社(常盤神社)が見えてきました。「廃村に行って必ずすることはありますか」の問いには「多くの集落には神社があるので,“来ました”とご挨拶に行きます」という定番の返答があり,今回も坂を上ってご挨拶です。
この辺りで「恐いと思ったことはありませんか」の問いがありましたが,「それはないですね,別に幽霊にはあわないし…」と答えていたようです。


# 13-7
神社より少し先を進むと足跡が見つかり,「無人になっている」というのは間違いだったことがわかりました。しかし,人がいないことにこだわっているわけではありません。永岡さんに「この手の意外な出来事も,廃村めぐりの面白さです」と話すと,「奥が深いですね〜」という返答がきました。
集落のいちばん奥の家におばあさんの姿が見えたので,「こんにちは」とご挨拶をして,集落のことを尋ねると,「3年ほど前から,冬はこの家で私とおじいさんの二人だけ」,「夏も3戸ほどしかいなくなった」とお返事をいただきました。これはとても味がある出会いでした。
横山さんは,ラジオの取材で訪ねたことを伝えていましたが,後の放送では「跡津川」ではなく「飛騨地方の山奥」という形で紹介されていました。


# 13-8
漆山小学校跡津川分校はへき地等級2級,児童数28名(S.34),明治41年開校,昭和40年閉校。地形図(有峰湖,S.46)の文マークは深い谷底にあります。しかし,おばあさんの「道から下ったところにあるが何も残っていない」というお話もあり,雪に埋もれた谷底に行く気にはなりませんでした。
跡津川より4kmほど先には佐古があります。佐古は分校の閉校(昭和45年)の頃に冬季無人化したようで,佐古に向かう道の様子は調べませんでした。
風の音しか聞こえない雪の中を歩くというのは,横山さん,永岡さんにとっても取材があったからのことで,日常生活からの脱却は感じてもらえたと思います。ただ,お二人ともスニーカーだったので,雪道は辛かったかもしれません。帰り道はカンジキを履いて,足跡を作りながら歩きました。

# 13-9
クルマに戻り跡津川を後にしたのは午後12時半頃。昼食休みの頃なのですが,横山さん,永岡さんは「先に取材を済ませたい」という感じだったので,私は事前に買っておいたパンをクルマの中で食べながら栃洞への道をたどりました。
猪谷と神岡を結ぶ鉄道(神岡鉄道)が廃止されたのは平成16年秋。鉱山が栄えていた頃(S.40)は27,603名だった神岡町の人口は,合併前の最後の国勢調査(H.12)では11,568名。神岡の駅の跡や古い市街地なども訪ねてみたいところでしたが,あまり取材に時間をかけてはいけません。
県道から栃洞に向かう枝道は2本あり,その上手の枝道近くにクルマを停めると,入口には「部外者立入禁止 神岡鉱業」という看板がありました。


# 13-10
雪道にはクルマの轍があり,3人は一列になって轍の上を歩きました。「あと400mほどで鉱山街跡の中心」というカーブまで着くと,「日油 神岡出張所」というプレハブ平屋建ての建物がありました。おじさんが居たので「こんにちは」とご挨拶をして,鉱山街跡の様子を伺おうとしたところ,「入口の看板に記したように,部外者は立入禁止なのでお戻りください」とのこと。これは出会わないほうがよい出会いでした。
栃洞小学校はへき地等級無級,児童数 842名(S.34),明治29年開校,昭和58年閉校。集落の無人化は平成4年。下手の枝道から再挑戦したかったところですが,横山さんの顔を見ると「あきらめましょう」だったので,学校跡を含む中心へのアプローチはあきらめざるを得なくなりました。

# 13-11
県道に戻って,下手の枝道の入口近くには光圓寺というお寺があり,栃洞で唯一人が住む家屋です。「飛騨三十三観音霊場 第十七番札所」という看板があるお寺には,よく吠えるイヌがいましたがお寺の方とは出会いませんでした。出会えたら出会いたかったところです。
境内から下手を見下ろすと,往時の2階建ての鉱山住宅の廃墟がありました。お寺を後にして,県道沿いからも見てみると,錆びた火の見やぐらが見つかりました。雪の降りが強くなってきたこともあり,「これを見られたことで終わりにしよう」となりました。
後のラジオでも,鉱山街跡に行ったという話は出ませんでした。しかし,跡津川でよい取材ができたので,及第点は取れたのではないかと思います。

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# 13-12
夜行の旅の疲れもあって,神岡市街からの戻り道,私は半分眠りながらぐったりとしていました。JR飛騨古川駅まで送っていただき,横山さん,永岡さんと別れたのは午後2時40分頃。取材と雪道の運転,お疲れさまでした。
飛騨古川からは富山に戻り,北陸線に乗り換えて高岡で下車して,加越能バス 井波・庄川町行きに乗り継ぎました。この日の宿は南砺市(旧利賀村)の民宿「利賀乃家」。予約の電話をすると「小牧堰堤まではお迎えに行きます」とのこと。小牧堰堤はR.156沿いのバスの終点ですが,夕方のバスは途中の庄川町までです。井波今町でバスを降り,今町のチューリップタクシー営業所から小牧堰堤まではタクシーに乗り,宿に到着したのは夜8時頃でした。

(追記) CBCラジオ「多田しげおの気分爽快!」の「永岡歩の世界不思議大発見!!」,「廃村マニアを大発見!!」は,平成21年2月19日(木)にオンエアされました。



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